紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  地産地消を考える

 地産地消とは、文字通り、地元で生産された農産物や農産加工品が、その地域内で、あるいはその周辺地域を含めて、消費者に直接販売される流通形態であるとともに、学校給食への生産物の供給、食農教育への貢献、生産物以外の当該農山村の有する価値の提供によるサービスなど、地域興しにつながる広い概念を含む。

 
地産地消という呼び方は、今ではよく聞くが、元農林水産政策研究所長の篠原孝氏が1987年頃に、有機農業をやっている人たちの間で使われていた地場生産地場消費、産消提携という言葉から、地産地消という言い方を初めて使ったようだ。

 
農産物・農産加工品の直販所の生い立ちには大きく分けて5つの形がある。1つ目は、農家が自分の畑で出来た農産物を農家自身が売る形の自然発生的なものから発展してきたもの、2つ目は、農家と消費者との交流活動の中から発展してきたもの、3つ目は、伝統的な「市」の展開の中から生まれてきたもの、4つ目は農協が直販所を設けたもの、5つ目は市町村などが施設を作ってその地域の農産物等の直販を奨めてできたものである。

 
地産地消による全国の販売額は、順調に伸びており、「都市農山漁村交流活性化機構」がまとめたものによると(2004年2月)、全国の直売所数は約12,000ヶ所(JAファーマーズマーケットを含む)、そのうち、常設が約3,700、仮設が約2,700、その他(庭先、無人等)が約4,700と推定されている。常設直売所の年間販売額は2,500億円で、そのうち、JAファーマーズマーケットが1,000〜1,500億円となっており、1ヶ所当たり年間販売額は約8,900万円である。常設でないものも含めると、全体の販売額は3,000億円と推定される。今後、さらに伸びるであろうが、5,000億円程度が限度であろうとされている(二木、2004)。

 三重県御浜町尾呂志の産地直売店「さぎりの里」
地産地消のメリットとしては、次のようなことが挙げられる。
(1)中間流通経費が省けて、
生産者の手取り分が多くなる。ある試算によると、生産者が農産物を直売所で販売すると、系統流通(従来の流通)の2倍近い手取り収入を得られると期待されている。また、生産者は、系統流通で求められる農産物の厳しい規格チェックと、規格外のものは商品として扱われないということから多少とも解放される。さらに、直売所で自家製の農産加工品や工芸品なども販売できる。ただし、農産加工食品を製造するためには保健所に申請書を提出し、都道府県の許可を得ることが必要である。

(2)消費者は新鮮な農産物を安く買える。また、生産者の顔が見えることから、安心して生鮮野菜などを買うことができる。

(3)生産者は、消費者に農産物の料理法などの
情報を直接伝えることができるとともに、生産物に対する消費者の意見を直接聞くことができ、生産や販売方法の改善につなげることができる。

(4)小規模な農家を中心とした少量多品目を扱う直売所、農産加工、学校給食への生産物の供給、観光農業、グリーンツーリズムなどが結
びついて、農家のやる気と地域おこしの新たな活動のエネルギーが生まれている。そこでは、生産者と消費者の交流が重要なポイントとなっている。

 
地産地消の環境的側面からの評価としては、次のことが挙げられる。
(1)農産物が、遠い海外や遠隔地から輸送されてくる場合には、船や飛行機、トラック、貨物列車などにより燃料や電力が多量に使われる。この時に、地球温暖化の温室効果ガスとして知られる炭酸ガスが排出されることになる。それでは、どれくらい排出するのかを相対的に比較するために、「フ−ドマイレ−ジ」という概念で表される評価法が提案され使われている。国内では、「だれもが安全な食品を手に入れられるしくみを作り提供する」ことを目的に掲げる「大地の会」が、フードマイレージの利用による地産地消の推進と、
炭酸ガスの削減を目指すキャンペーンを行っている。

(2)地産地消により消費者に提供される農産物は、環境保全型農業によって生産され、安全性に気をつけたものであることが求められていることから、
生産環境の保全につながることが期待される。

(3)地産地消の活動では、できる限り地域の自然環境、農業環境などの地域資源や伝統文化を合わせて消費者にPRし、都市住民との交流を図っていくことが重要な要素となっている。このためには、
地域の環境保全と再生、地域資源の再評価と持続的利用に心を配り、実践していくことが重要となっている。

(4)また、地域や訪れる都会の子供に
食農教育をし、地域の環境と伝統文化を教え、それらを理解し、大切にし、誇りに思ってくれる人材に育てていくことを通じて、将来的に地域の環境保全と地域資源の持続的利用につながっていくことが期待される。

 
地産地消の課題としては、次のようなことが挙げられる。
(1)地産地消の発展により、スーパーマーケット、近接した直販所などとの
競争が厳しくなってくるので、直販所の経営の持続的発展を図るために、様々な手法と新たな考え方を導入していくことが必要であり、リーダーと会員の力量アップと積極的な相互協力が重要となっている。

(2)地産地消を地域おこしの観点からみた場合に、特に、農山村地域では、直販所が重要な役割を果たし、地域住民とそこを訪れる都市住民への地域産品の提供だけでなく、地域の観光農業、グリーンツーリズム、農業体験など地域資源や環境の保全・再生、それらを基にした
都市住民との交流の機会を日常的に活発化していくことが重要となっている。このような複合的な方向性を持たせることによって、地産地消を持続的に発展させることができるが、地域の人材活用と粘り強い努力が必要となっている。

(3)消費者に提供する
農産物の安全性確保について、特に、残留農薬については、検査機関のチェックを受ける機会が少ないので、生産者と消費者との顔の見える信頼関係が重要である。したがって、販売品には生産者の氏名の記入が不可欠であろう。農家自身も、農薬使用基準の熟知と遵守が必要不可欠であり、本人と直販所の信用を守るために、個々の農家の自覚と研修が必要である。そして、生産履歴を必ず記入し、クレームがあった時に公開できるようにしておくことが不可欠である。さらに、今後は、消費者が、販売品について簡易に生産履歴を閲覧できるようなシステムの導入が望まれる。

(4)
地産地消の活動が持続的であるためには、ボランティア的な部分があるものの、経済的に成り立たなければならないのは当然である。そのためには、収益に見合う施設・設備等への投資と返済計画、顧客の要求に応えていくための農産物・農産加工品の地域ブランド化や適切なマーチャンタイジング(商品化)計画とその実践が求められている。
(写真は御浜町上野の産地直売店「さぎりの里」(国道311号線沿い)の店内。2006年8月撮影)

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